海底

 

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わたしの初恋はあやふやで、それは自分の事のようで自分の事では無いような不思議な記憶がいつまでもあった。誰にも言えずに(もしかしたら酔った勢いで20代の頃に居酒屋とかで不特定多数に向け何度かグダグダと話してたかもたぶん笑)、でも今までそんな話になる度に『確か5歳の時に幼稚園の男の子で、砂場にいつも居る寡黙な子だったなっ(おまえもな)』ってその場では言っていたのだけど、え?本当か?別にいるだろ?って、ウソではないはずなんだけれど、もう一人の私が突っ込む感じが心の中にいつも残った。まぁそういうもんかもしれんなぁ、記憶なんて夢なのかもしれないしなぁ。。

酔わないと話せなかったもう一人の人のほう、グレーゾーン、子供ながらに何となく嗅ぎ取っていたと思う、だから公に言う事が出来ないでいた。でも当時は5歳6歳ながらに何度か会う度に『好き』という気持ちが育っていくのがわかった。これはあれだ、そうだあれなんだと確信にかわり、この気持ちを誰かに言わずには居られなくなり、宣言した。あやふやなものを自分も見ているんだと肯定したかった。宣言した瞬間を今でもはっきりと覚えている。

『わたし、●●さん、すき!』車中で両親に。両親はクスクスと笑っていた。隣で弟は眠っていた。暗闇の中、私たちの車についてくる●●さんの車を、後部座席からふり返り、運転している●●さんを見つめながら無邪気に言ったはずの私、でもその風景は今も頭のどこかにこびりついていて、何の気無しに湧き出てくるし、もう40年も前のことなのに、まだ何も終わっていないかのようにリアルで、おまえの原点はここなんだよと、時々引っ張り込まれて落ちる。。

その人は父より少し年上の人で、父の友達というか趣味仲間で『師』のような、後半は『仙人』とよばれるくらいの浮世離れした人だった。当時は毎週のように私の家に寄ったり、ふらっと行方不明になったり、また現れて5年おきくらいに見かけたり、私も時々話したり。

でもね今思えば言葉が通じない感覚、共通言語がないなといつも漠然と悲しくなったりしてた。年齢もわからない、父は苗字と出身地しか知らないと言ってて、本当の事で、それはすごく不思議だったんだけど、男同士は必要以上に話さないんだなぁと学んだ。相手の素性は気にしない、好きな事だけを話して共有する、父が信頼しているし尊敬しているのはわかってた。その人は風の噂で知らせる手段を本気で身につけてる人なので(仙人‼︎)生存確認は誰かから来るし、生息域も見当がつく、まあ元気で相変わらずやってるみたいだなでも年齢もあるからなぁと、最近は時々心配はしていた。

本当に『海と山』の事しか興味ないし他は何にもいらないを貫き通し生きている人だった。生涯独身、自然しか愛せない人、とても幸せだったと思いたい。。

ブルージーンズ、くしゃくしゃの笑顔、柔らかいハスキーな声、筋肉しかない痩身、素潜り、色んなしがらみであまり詳しくは書けないんだけど、確かにいた人。

たぶんきっと、この30歳以上も年上のこの人がわたしの本当の初恋だったんだろうなと、そろそろ認めなきゃいけないね。。

うん、初恋の人が亡くなった。海の底へと沈んでいった。。

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